大森南朋率いる“月に吠える。” が魅せたロックの初期衝動とミドルエイジの余裕《公式》
大塚和成です!!
エキサイトミュージック
大森南朋率いる“月に吠える。” が魅せたロックの初期衝動とミドルエイジの余裕
撮影/三浦憲治
俳優・大森南朋率いるロックバンド“月に吠える。”のワンマンライブ『月に吠える。ジュクで吠える。』が去る11月18日(日)新宿BLAZEで行われた。彼らの2018年内最終公演であり、バンド史上最大規模のワンマンとあって、大いに沸いた一夜限りのステージをレポートする。
聴き覚えのある映画音楽のSEに乗り、長野典二(Ba)、山崎潤(Dr)、塚本史朗(Gt)がポジションに着き、続いて大森南朋(Gt,Vo)が飄々と登場。「この世界」のサイケデリックなアプローチで鮮烈にステージの幕が開けた。続けて「I wanna be your rockn’roll star」で痛快なロックナンバーを飛ばしオーディエンスの心を一気に掴みにかかる。
「中年のロックバンド、月に吠える。です!」と大森のシャウトと共に「空蝉」でブルージーにルーズに落とし込み、「世田谷NERVOUS BREAKDOWN」では刺激的なMCを発しつつもポップで明快、緩急自在に攻めていく。バンド名と同じタイトルを冠し「月に吠える。」では、変則的なリズムでめくるめく彼らの音の渦に惹き込まれる。
次曲のイントロに乗せたMCでは、前日に映画鈴木家の『嘘』での舞台挨拶に便乗して、自らのバンドTシャツを披露しライブ告知をしたことで宣伝部に怒られた、というエピソードで笑いを誘いつつ、「恋にバカで」は唯一のファンクナンバーが聴衆の身体を揺らし高揚感をもたらす。BLAZEでのライブの実現に大森が感謝を述べつつ「夢じゃないね、武道館も!」の叫びに続いて、新曲の「夢の中」は軽妙なステップを魅せながらスカ・ナンバーを展開し、バンドの音楽性の振れ幅の広さが如実に窺われた。
彼らの名刺的楽曲ともいえる「ロマンチックブギー」では、きわどい即興的歌詞が飛び出しつつ「こういうのやってみたかった、映画に出ていてもこういうことできないから!」とコール&レスポンスになだれこみ、ライブならではの醍醐味にメンバーもオーディエンスも実に楽しげだ。
打って変わってアコースティックコーナーへ突入し、レアなバラードの「夜の雲」はカホン+アコースティックベース+アコースティックギターというシンプルな編成で大森の温かみのある歌声がいっそう際立ち、聴衆の心に溶け込んでいく。続いてのMCでは、大森がこの後に登場するスペシャルゲストについて謎かけをして、オーディエンスからの「お父さん!(=麿赤兒)」「お兄ちゃん!(=大森立嗣)」との珍回答に絶妙なボケを返しつつ、「真っ黒いエレキギター」「西のインディアン」とポップ寄りな楽曲で和やかなムードが流れた。
ここでスペシャルゲストが登場、三線を手に現れたのは俳優・桐谷健太だ。「出演が決まったのは3日前」ながらも、「海の声」を堂々披露し、サビでの桐谷・大森のユニゾンや二人の息の合ったやり取りにオーディエンスは眼福しきりだ。
ゲストコーナーの後はモードを切り替えるべく、大森がおもむろに帽子を被り次なる展開へ。「オールドでヤングなロックンロール」、フォーキーに泥臭くストレートに感情をむき出しに吐露する、生々しい気迫は圧巻だ。
そして「ここから後半戦」と宣言して「ただただ…」「リズム」で直球のロックンロールナンバーを連投し、シンガロングを煽りそれに応えるオーディエンス。「さよならブギー」「センチメンタルブギー」でのブルージーなロックは、このバンドを強烈に印象づける持ち味のひとつで、グルーヴが最大限に発揮。「カモンレッツゴーロックンロール」ではライブ映えする決めのフレーズとギターリフでヒートアップし、「ズリぃな」は完全に沸点を振り切ったパフォーマンスに圧倒だ。そして本編ラストを飾るのは「ワンダートレイン」、ロードムービーさながらのメロウ・チューンが少し感傷的にフロアを包み込んだ。
アンコールでは大森が冒頭に一人で登場し、ジョニー・サンダースとお揃いのギターを携えて弾き語り出したのは「気まぐれジョニー」、曲半ばでメンバーが音を重ね、淡々としながらも熱を帯びていくドラマティックな音像が胸に迫る。次に「懐かしい曲をやるぜ!」と披露したのは「246」、ライブ・アンセムにふさわしいキャッチーなワード、“ニーヨンロック! キープオンロック!”で会場の一体感が最高潮に。そしてライブのオーラスを飾るのは「だってこんな好きなんだからしょうがない」、エモーショナルに楽曲タイトルのフレーズを連呼する大森、まるで彼自身の音楽に対する想いのたけを叫んでいるかのように熱く響いた。
このバンドが持つ、今なお抱き続けるロックンロールの初期衝動と、ミドルエイジならではの余裕と、ライブ感を心得た絶妙な“間”の取り方。そして音楽に心酔し、身体に沁みついて溢れ出てしょうがない、紛れも無いミュージシャンの姿がそこにあった。百聞は一見に如かずー聴き手に喰らいつく、月に吠える。の魅力と熱量はこの先さらに高まることだろう。
(取材・文/上田 優子)
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